奄美の伝統食をクラファンで発信

地域デジタルマーケティングのすすめ⑪

クラウドファンディングで地域の課題やアイデアを発信してファンを集め、地域創生につなげる人や組織が増えている。クラファンはインターネットでやりたいことを発表し、賛同してくれた人から広く資金を集める仕組み。奄美の伝統食ミキを独自にアレンジした飲料を開発してクラファンで発信し、鹿児島市内に発酵スムージー専門店「暦―KOYOMI」をオープンさせるまでに至ったのが、瀬戸内町出身の牧真理子さん(37)だ。

牧さんが2022年春、大手クラファンサイト「CAMPFIRE」で実施した「ミキ」のプロジェクト

 ■奄美のフルーツとミキ

 「美容と腸活!古来から奄美に伝わるお米の乳酸菌飲料『ミキ』を全国に届けたい!」―。牧さんは昨年2月、大手クラファンサイトの一つ「CAMPFIRE」で、ミキを全国に発信するプロジェクトを発表し、知り合いや親類がいる奄美のほか全国各地の66人から支援を受けた。

 奄美大島産のパッションフルーツやドラゴンフルーツ、鹿児島県産のローゼルやモリンガといった植物をミキにブレンドしたオリジナル商品「発酵MOON」を開発。これを将来的に自社加工施設で製造し、店舗や電子商取引(EC)を通じて全国の奄美や発酵食に興味のある人々に飲んでもらうことを狙ったのだ。

 人口減少などで地域の財源が限られる中、地域創生や地域事業の新たな資金調達の手段としてクラファンの活用が広がっている。矢野経済研究所によると、2022年度におけるクラファンの国内市場規模は1900億円に上る見通し。奄美でも民泊施設の開設や牛肉販売のプロジェクトなどが注目を集めている。資金を調達するだけでなく、地域へのファンを生み出し、新たな経済を促進する起爆剤にもなっているのだ。

 ■都会生活で体調不良に

 牧さんは、瀬戸内町古仁屋生まれ。高校に1学期だけ通っただけで退学し、島を飛び出し、東京で4年間を過ごす。歌手に憧れてアルバイトをしながらボイストレーニングやバンド活動をしていたが、「井の中の蛙(かわず)だった」という。

 成人式後に移住した大阪では、沖縄居酒屋経営の会社に就職し、飲食業界入りした。沖縄の郷土料理に島唄のライブ―。初対面でもお客さん同士が盛り上がっているのを見ると、「輪になれる文化は素敵(すてき)」と感じ、初めて地元奄美の文化や料理に興味を持ったという。

 都会生活も板についていたはずだったが、いつも体調不良に悩まされていた。いつも風邪気味で、円形脱毛症や金属アレルギーも患うなどした。

 思い返せば、ほぼコンビニ弁当の毎日で、「食生活に問題があるのではないか」と気づいた。そこで牧さんが始めたのが薬膳や漢方の勉強だった。「現代の西洋医学は、血液検査などの数値が出ないと治療が始まらないが、漢方は病気になる前の『未病』段階から個々人に合った原因を考え、心身のバランスを整えていく。古い文化だが、回り回って最先端」と、国際薬膳調理師の資格も取得した。

 思い出したのは、103歳まで長生きした祖母が冷蔵庫に入れてよく飲んでいたミキだ。米とサツマイモという原料だけで発酵させて作る。化学調味料も一切使わない。調べてみると、ミキに大量に含まれる乳酸菌が腸内環境を整えてくれ、「長寿の島」とも関係性があるとされる。「これをもっと広めたい」と思ったのだ。

 ■初めての製造業

 それから約15年後の昨年8月、牧さんは発酵スムージー専門店「暦―KOYOMI」を鹿児島市堀江町にオープンした。

 天文館で2018年から経営していた奄美居酒屋を、コロナ禍の影響などで21年夏に閉店し、「私が今やりたいことは何だろう」と自問自答した日々から約1年後のこと。飲食店経営からコロナなどにも影響されにくい食品製造業に舵を切るために、鹿児島県の6次産業化の研修などに参加し、ミキの商品作りなどの準備を着々と進めていたのだ。クラファンで多くの人が支援してくれたこともあり、「何としてでもやり通したい」と自分を追い込んだという。

 3階建ての建物を借り、1階は店舗、2階にミキなどの加工施設を整備した。鹿児島市内でミキを作っているのは同店のみだ。

店内では、マヨネーズにミキを混ぜてサンドイッチにした商品やさまざまなフルーツをミックスしたミキのスムージーが人気。発酵食品のミキはさまざまな料理の調味料にも活用できる可能性があるとして、開発を重ねているという。昨年末に開かれた「鹿児島新特産品コンクール2022」では鹿児島市長賞を受賞している。

 ミキの製造と販売を安定させようと奮闘中。店舗でのテイクアウト販売のほか、各地での食のイベントへの出店、ライブコマースなどにも挑戦している。

鹿児島市堀江町に2022年8月にオープンした発酵スムージー専門店「暦―KOYOMI」。ミキなどを使ったスムージーやサンドイッチ(写真左下)、総菜などが購入できる

 ■食で伝える地域の魅力

 奄美は今、世界自然遺産登録が注目されがちだが、伝統食を通じて地域の魅力を伝えていく役割の大切さに気づいた。

 「ミキだけにこだわらない。奄美や鹿児島には、スポットが当たっていない食材がたくさんある。農業への支援を含めて加工品の開発を進めていきたい」。タンカンや長命草、島アザミ、キビ酢、海塩のほか、ヤマイモの一種のコーシャマンなど奄美の珍しい野菜も素敵な材料になる。

「古いものを新たな形で現代に蘇えさせる」のが自分のミッションだと感じるようになった。「昔を学ぶことでより新しいものが生み出せる」と牧さんは話した。

(吉沢健一、デジタルマーケティングコンサルタント)

 ※奄美の新聞社、南海日日新聞2023年4月19日付から転載

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