地域内のデジタル発信で連携を

地域デジタルマーケティングのすすめ⑩

奄美在住のフリーライターとして、大手ウェブメディアや地方新聞などに寄稿して島のディープな情報を取材・発信する傍ら、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で沖永良部島のグループを立ち上げ、デジタル発信などによる住民同士の新たな連携の形を模索しているのが、合同会社オトナキ代表のネルソン水嶋さん(39)だ。地域課題を含めた情報共有をフックにした住民同士のコミュニケーションによって、外国人など多様な人々が生き生きと暮らす「共生の島」の実現を夢に描く。

水嶋さんがLINE上に立ち上げた沖永良部島のグループ「えらぶカレンダー」。地方新聞にも載らないローカルなイベント情報などが人気だ

■LINEでニッチな地域情報

水嶋さんが昨年2月にLINE上に立ち上げたのが、沖永良部島の2町(和泊町と知名町)にまたがるグループ「えらぶカレンダー」だ。両町内の地区(字)や学校、団体などのスポーツや音楽などの各種イベント、事業者の新規開業や新商品発売、セールなど島内のニュースや情報などを集めて発信している。地方新聞でも掲載されないローカルさと、行政機関では扱えない民間情報の数々が地域ニーズを掘り起こし、現在のフォロワーは338人となった。

水嶋さんは「技術進歩によって生活(移動手段や通信手段、労働環境など)が合理化された裏側で、地域での寄り合いの場は少なくなり、島であっても住民同士のコミュニケーションの機会が失われつつある」と指摘。昔の暗川(クラゴウ)で女性たちが水汲(みずく)みや野菜洗いをしながら地域の情報を共有しあったように、「デジタルなどテクノロジーの活用によって人々のコミュニケーションの場を取り戻したい」と話す。

■コミュニケーションで人を招く

水嶋さんは大阪市生まれ。母親の故郷が和泊町国頭という沖永良部2世だ。

2019年11月まで8年間はベトナム・ホーチミンで暮らし、現地の情報を発信する自身のブログ「べとまる」の月間アクセス数は最高で15万(PV)に上る人気となったほか、ウエブメディア「デイリーポータルZ」で新人最優秀賞を受賞するなど、ライター稼業は軌道に乗りつつあった。

だが、水嶋さんにゆかりのある沖永良部島には、ベトナムなどからの外国人実習生が多く働き、一部は待遇の問題やトラブルなどで「島から逃げ出している」という報道に衝撃を受け、2020年7月に一人で沖永良部島に移住してきた。

 日本語も必ずしも流暢ではない外国人が地域住民と日本人と同じような潤滑なコミュニケーションをするのはそもそも難しいし、誤解などでさまざまなトラブルも発生しやすいのは確か。「コミュニケーションによって問題が起こっているなら、コミュニケーション(の改善)によって人を招くこともできる」と水嶋さん。海外での異文化コミュニケーションの経験を島で活かしたいと考えた。LINEのグループ「えらぶカレンダー」も当初は、島の外国人とのコミュニケーションの手段にしたいと考えていたものだったという。

■外部発信の前に「地域内の発信」

ネルソン水嶋さんが沖永良部島の漁師たちが開く人気のイベント「みへでぃろ市」を取材した記事(離島経済新聞社の「ritokei」より)

水嶋さんは移住からの2年間、離島経済新聞の「ritokei」や琉球新報、奄美群島南三島経済新聞、離島の生活文化を伝えるウェブメディア「しまのま」、デイリーポータルZなどの媒体で、沖永良部島や与論島などの地域情報を発信してきたが、島での課題にぶち当たる度に、「外部への発信の前に、地域内部での情報共有の大切さに気付くことが増えた」という。

NPO(非営利団体)の活動資金集めなどを専門にする「准認定ファンドレイザー」でもある水嶋さんは、昨年からある子育て支援施設のクラウドファンディングや助成金の申請などのサポートを手掛けているが、島内には他にも子育て支援施設が複数あるものの、それぞれの施設同士の横の連携はあまり取れていないことを知った。「施設それぞれの強みや弱みを出し合って、島内の企業や団体が連携しながら課題解決に向けて取り組めば、エネルギーや資金ロスも防げる」と水嶋さんは考えている。

島にはその他にも、外国人研修生に代表される農業現場での労働力不足や、少子高齢化による人口減、増える海洋ごみなどなど、「地域が抱える課題は地域内でもう少し情報共有ができていれば、もっと効率的な沖永良部島全体のチームビルディングができる」と話す。

こうした地域での地域課題の共有は、住民同士のつながりを生み出し、新たな解決策をもたらすだけではない。「どこの地域でも課題は恥だとして地域内だけに隠そうとしがちだが、地域外に向けて常日頃から発信することで、地域の課題に共感する意欲ある若者たちや島の出身者たちの島への移住を促し、果ては知識や経験のある専門家たちにも届き、手を貸してくれる可能性も広がっていく」と期待している。

子育て支援施設では、子供たちと島に暮らす外国人の交流の場を設けることも検討されている。地域の子育てを中心に据えて、多様な価値観や文化を背景に持つ人々が共生する姿も少しずつ見えてきた。

「地域内の情報共有によって課題と課題を組み合わせることで解決することもある」と水嶋さん。デジタル発信の外向けと内向けの組み合わせを現地で地道に実践し、課題解決に向けた地域の新たなつながりを生み出しく計画だ。

(吉沢健一、デジタルマーケティングコンサルタント)

 ※奄美の新聞社、南海日日新聞2023年3月22日付から転載

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