地域デジタルマーケティングのすすめ④
若者らに人気のインターネット交流サイト(SNS)を上手に活用して、奄美への観光客呼び込みに成功するケースも増えてきた。今回は、与論島でゲストハウスやカフェ、トリートメントサービスを手掛け、さらにエコツアーガイド、地域通訳案内士でもある佐藤伸幸さん(40)にSNSの活用方法などを聞いた。2回にわたって紹介する。
SNSにはツイッターやインスタグラムなどさまざまなものがあるが、佐藤さんが観光客向け発信や誘導の手段の中核と位置づけているのが「インスタグラム」だ。スマートフォンで写真や動画を簡単に共有(シェア)することができるアプリで、与論島に来た旅行客の多くは島の風景や人、料理、アクティビティなどの写真や動画を投稿する。
インスタグラム内を「#与論島」で検索すると、直近で島に来ているさまざまな人の投稿が見られる。この与論島に関係する投稿数の増減などを毎日チェックしていると、来島している観光客数、自らのお店にも何人ぐらいが訪れるかがおおよそ推測でき、仕込みの量を調整しているほどだという。
■インスタグラムでアプローチ
まず彼らの投稿に「いいね」ボタンを押して、アカウントをフォローまたは、投稿にコメントすると、旅行客は佐藤さんのインスタグラムにあるプロフィールを閲覧し、与論島に佐藤さんのカフェがあることを知ることになる。
すると旅行客は逆に佐藤さんのアカウントをフォロー。そしてインスタグラムのプロフィール欄にリンクしてある店舗紹介のユーチューブ動画などを視聴するため、直接来店する行動へとつながりやすくなるのだ。
佐藤さんは「インスタグラムに島のきれいな風景写真や店舗情報を投稿するだけで満足してしまい、自ら観光客にアプローチする同業者はまだ少ない」と言う。
島に訪れるプロのマーケターなどに教えてもらいながら、さまざまな試行錯誤の中で成果を確認した方法だ。3年前のカフェの開業と同時にインスタグラムを始め、フォロワー数は現在5000人を超えた。コロナ下にもかかわらず来客数は2年目が初年度比1・5倍程度で、今年はこれを超える成長を目指している。SNSのみならず、料理メニューの改善など地道な努力も欠かせなかったが、「SNSが売り上げの早期回復の最後の決め手になった」。
■ユーザー側のコンテンツ「UGC」
観光客や消費者などのユーザー側がSNSに投稿する写真や動画、文章などのコンテンツは「UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)」と呼ばれて昨今、注目されている。佐藤さんはこのUGCの重要さもよく理解し、自らのお店の宣伝にも活用している。
「#与論島」でインスタグラムを検索して、佐藤さんのお店や料理の写真が写った来店客の投稿を見つけると、「ご来店ありがとうございました」などとコメントして、この投稿をお店のインスタグラムでシェアする。佐藤さんが自身でお店の写真をインスタグラムに投稿しなくても、顧客の投稿写真でお店を宣伝する形になるのだ。
「他人が評価した内容だから、お店への信用度が高まり、お客さんの間でシェア拡散されやすくなる効果がある。同じ価値観の人(ユーザー)が評価しなければ信用は得られない時代だ」と佐藤さんは、UGCを活用する重要性を指摘する。
■リピーター呼ぶ「環境文化」体験
ただ、佐藤さんはカフェだけでなく、宿泊施設やトリートメントサービス、エコツアーも手がけている。
「カフェは入り口。まず気軽にお店に立ち寄ってもらう。観光客それぞれと話をすれば、百合が浜に行きたいのか、ダイビングをしたいのかなど旅のニーズを探ることができる」。ここから佐藤さんが行っているエコツアーなどの「深い旅」の体験にも誘っていくのだ。
佐藤さんは「百合ケ浜はきっかけでしかない」と強調する。さらに奄美群島国立公園の真の魅力であり、国内初の強みである「環境文化」を体験してもらうかどうかで、リピーターになるかどうかも決まると断言する。環境文化は、自然環境だけでなく、その中で生きる人の営みも含めたものだ。
佐藤さんのエコツアーでは、与論城址などの史跡の案内だけでなく、島民が行う海岸清掃への参加や島民が野菜などを販売する朝市を案内するなどし、「移住者の僕が過去7年間、与論で感じてきた感動やカルチャーショックを体験してもらう内容にしている」という。
エコツアーを体験した人々が熱量を持ってSNSなどデジタル発信していけば、さらに観光客を呼び込むという好循環につながっていく。
佐藤さんは、これまでそこにあった当たり前の奄美の魅力にSNSを掛け算したことで、観光に新しい変化をもらそうとしている。(デジタルマーケティングコンサルタント)
※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年9月21日付から転載
+ There are no comments
Add yours