SNS時代に輝く奄美

地域デジタルマーケティングのすすめ(18)

デジタル時代への変化にいち早く反応し、離島としての地理的なハンディ、情報格差を越える重要なツールとして市民や事業者らのデジタル活用を推進してきたのが奄美市だ。奄美の良さを育て、発信する活動に取り組んでいるという安田壮平市長(44)は、「地方回帰が進む現代にあって奄美の価値観はSNSなどデジタル発信でより輝く」と話す。

「奄美はデジタル時代に発信力が高まっている」と話す安田壮平奄美市長

地方時代の幕開け

「雨上がりの空に掛かる虹」「夕暮れ時、海辺で潮風に当たりながら世間話をするおばあさんたちの姿」―。安田市長はそんな奄美の日常が、SNSなどデジタル発信の素敵(すてき)な素材になっていると言う。奄美の自然の美しさに注目し、その稀(まれ)なる才能で繊細に描いた田中一村画伯は象徴的だが、奄美に昔からあるものに改めて焦点を当てるとより地域が輝き出す。

安田市長は、世の中の価値観の変化が、奄美の発信力を後押ししてくれたとみている。

シマ唄の唄者、元ちとせさんが「奄美大島出身」と銘打って堂々とメジャーデビューし、奄美大島と徳之島が世界自然遺産の候補地になったのが202021年。その頃から、「全国から地方へ」「量から質へ」「画一性から個性へ」と価値観の地殻変動が起こり、沖縄や鹿児島本土の中間にあって見逃されてきた奄美の自然や文化の特異性が注目されるようになったという。

デジタル活用進む島

ちょうどその時期に重なるようにインターネットが普及した。奄美市(旧名瀬市)では2000年代に入ってすぐから、地理的なハンディを乗り越え、生産性を上げうる技術として市役所庁内のデジタル化や市内各地域への光回線網の敷設などが進められた。2011年には奄美市は「地域情報化計画」を策定したほか、㈱しーま(奄美市)がブログサービスを開始し、個人がそれぞれデジタル発信する文化が定着した。

13年に策定された、奄美群島振興開発特別措置法(奄振)にかかる「奄美群島成長戦略ビジョン」では、農業と観光交流、ICT(情報通信技術)の3分野が成長の柱として初めて位置付けられた。従来の港湾や道路などのインフラ整備とともに、地域の自然文化の発信というソフト面の重要性が認識された。

こうした流れに合わせ、奄美市ではフリーランスのライターやイラストレーター、写真家のほか、各種事業者などが島にいながら都会と取引できるようになる動画やSNS、コードの講座などを毎年開いている。デジタル技術を通じたこうしたソフトパワーが「島の稼ぐ力」となりつつあるのだ。

自立とは自分たちの決定権

デジタル活用が奄美の自立という課題に役立っているかとの問いに、安田市長は「100%、自分の力だけで人や地域は生きていくことはできない。いろんなところに頼りながら、またこちらも相手に頼られながら生きていくというのが現代の自立の姿ではないか」と言う。

戦後の奄美の人口は20万人から10万人に減少したが、その多くが就職や進学などで本土に渡っている。そうした奄美が人材などで本土に貢献するとともに、一方で奄美も国や県、沖縄などいろいろな関係性の中で本土の力を借りながら発展してきたという、「共存の歴史」がある。近年では海外との連携も重要性を増している。

自立という意味なら、「大切なのは自分たちの決定権だ」と安田市長は指摘する。「自然保護か、開発重視かと地元でも意見が分かれることもあるが、それを調整しコントロールしていく権利は地元がしっかり持ち続けること」。こうした地域の自治の精神が、これからの自立の要となると強調する。これはUターン・Iターンの移住者を呼び込んだ地域づくりを促すデジタル発信のポイントにもなっていくとみている。

奄美市はXやLINEなどの公式アカウントを開設。市内でのイベントや各種お知らせなどを掲載。市民とのコミュニケーションツールとなっている

多様性が群島の魅力

奄美群島は、奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島などの八つの島から成り、自治体数は1市9町2村、総人口は約10万人に上る。インターネットがない時代にはこれらの海で隔たれた島々間で情報を共有する手段は電話や郵便、ファクスしかなく、物理的・心理的な距離も開いていた。だが、SNSなどのデジタルツールによって、「群島同士の精神的な距離がかなり近くなった」と安田市長。

「奄美群島成長戦略ビジョン」の実現に向けて奄美群島広域事務組合がソフト面の発信を強化しているほか、各市町村はそれぞれプロモーション動画を制作し動画共有サイトの「ユーチューブ」で注目されるようにもなっている。

奄美群島で統一したデジタル発信の方向性が特にあるわけではないが、「群島の魅力は多様性とその包容力だ。それぞれの島、それぞれの市町村のレベル、そして住民のそれぞれで異なる文化、自然をどんどん発信していくことが奄美らしさにつながるのではないか」と言う。

見える化で信頼を

「奄美市民にとってもデジタルコミュニケーションの果たす役割は相当大きくなった」と安田市長。若い世代はインスタグラムやティックトックで情報を求めているし、観光振興も物産販売も、移住促進にとっても今や欠かせないメディアとなった。

安田市長が座右の銘としている論語に、「民は由(よ)らしむべし,知らしむべからず」という言葉がある。行政の意思決定の全てを市民全体に伝えきることは難しいからこそ、市民に信頼してもらうよう努力する必要があることだと、安田市長は解釈している。安田市長自身がSNS のX(旧ツイッター)などで発信しているのも、どんな仕事をしているのかを見える化し、市民一人ひとりとコミュニケーションしていくことが大切だと考えているためだ。デジタルコミュニケーションが奄美の地域づくりの力となっている。

(吉沢健一、デジタルマーケティングコンサルタント)

※奄美の新聞社、南海日日新聞2023年12月20日付から転載

 

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