地域資源「再編集」で発信力

地域デジタルマーケティングのすすめ⑦ 

 観光客に人気のフリーペーパー「みしょらんガイド」、通販サイト「いっちば」、お土産店「okuru amami」「みしょらんカフェ」―。奄美でさまざまな事業を手がけている㈱しーま(奄美市名瀬)。深田小次郎氏(45)が兄とともに手弁当でインターネット上の日記「ブログ」の普及事業から始めた会社だが、島内外のデザイナーやカメラマン、イラストレーター、編集者などの仲間を得て、奄美群島内にあるさまざまな地域資源を「再編集」することで新たな事業を生み出し、デジタルと現実(アナログ)の区別なく奄美の発信力を高めることに成功している。

株式会社しーまが運営する奄美の通販サイト「いっちば」。奄美の旬の商品が定期的に届くサブスクリプション(定期購入)サービスも開始した

 ■ブログで現地から情報発信を

 「情報がないと、奄美のことも認知され得ない」―。深田さんは2005年から派遣社員として東京の大手通信社のシステム部で働いた5年間、国内外から送られてくる大量の記事を扱う中で、情報発信の大切さを身に染みて感じていた。

 時代はちょうど、ブログで地域の個人が気軽に発信できるようになったばかりで、インターネットメディアの可能性に賭けた。2010年から月1回、奄美に帰省して各島を訪ねては「ブログ教室」を自費で開き、島民自らが現地から発信する方法やコツを説いて回った。この「ブログ運動」とも呼ぶべき活動は、奄美初のブログのポータルサイト「しーまブログ」の運営につながる。登録ブログは5400、月間のページビュー(PV)は500万を超えた。ブログで店舗の情報を発信し続けた店主から「客が来るようになった」という喜びの声に手応えを感じ、励みとなった。

 

 ■デジタルからアナログに戻った理由

 しーまブログのアクセス数が順調に上昇する中、奄美好きの旅行客が「島の飲食店のガイドブックがあったら便利なのに」と言っているのを聞き、しーまが挑戦したのが観光客向けに奄美の飲食店や観光地などを紹介するフリーペーパー「みしょらんガイド」の制作だ。

 「ブログにはない奄美の情報を伝えることが目的だったため、デジタルから紙というアナログ媒体に戻るということに躊躇(ちゅうちょ)はなかった」と深田さんは話す。

 デジタル発信から始めた会社だが、紙のフリーペーパーなら旅行者にも情報が届きや少なる。地域の実情に合ったメディアの組み合わせであるクロスメディアに取り組んだのだ。

 嬉(うれ)しい誤算もあった。旅行者向けのガイドブックのつもりだったが、インターネットにはまだ疎い多くの島民も手に取ってくれた。旅慣れた旅行者より島民の方が、観光地や飲食店など島のことを知らないこともあり、紙のガイドブックの需要があったのだ。2014年の発行当初は2万部だったが、年々増やし、22年版は12万部となった。

 ■島の価値を「尖らせて伝える」

 島にある既存の観光地や店舗、商品、サービスなどいずれも、「編集でメッセージ性を尖(とが)らせれば、ターゲットに伝わり、売れる」―。島ならではの付き合いからの広告出稿ではなく、媒体としての集客効果をきっちり出してビジネスとして成り立つフリーペーパーづくりにこだわったからこそ、社員たちと探り当てた同社の理念みたいなものになった。

 デザイナーやカメラマン、編集者たちと常々確認する編集ポイントは、①奄美テイストが入っているか②ターゲットを設定しているか③ちゃんとメッセージが伝えられているか―の三つ。「あれもこれもと盛り込みたくなってしまうが、詰め込みすぎるとぼやけてしまう。編集作業でテーマを絞り込んだり、テーマに沿った商品だけを集めたりメッセージ性を尖らせている」という。

 ■「稼げる島」への一歩に

 編集ポイントは、同社が手掛けるさまざまな事業にも共通して貫かれている。通販サイト「いっちば」では、奄美に既存した商品をテーマに沿って組み合わせ、デザイン性の高い箱や包み紙で「島ギフト」としてパッケージ商品として売り出した。他にもあやまる岬で3年前に開催したイベント「星降るマルシェ」では、天体など星に関する料理やイベント内容だけに絞ったことで、参加者がインスタグラムなどSNS(インターネット交流サイト)などで拡散してもらえるきっかけともなった。

 「外からはいろいろな事業をやっているように見えるかもしれないが、私たちとしてはどの事業も編集という作業は一緒。島の価値を安売りせず、しっかりブランディングしていくことが大切だと思っている。SNSなどデジタル発信の時代には、奄美の自然文化の個性や希少性がコンテンツとして光る。むやみに市場の拡大を目指すのではなく、島の価値を理解してくれるターゲット層に届けていくことの方が、『稼げる島』につながっていくのではないか」と深田氏は話した。

(吉沢健一、地域デジタルマーケティングコンサルタント)

 ※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年12月14日付から転載

 

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