「地域交流メディア」としての動画チャンネル

地域デジタルマーケティングのすすめ⑥

 動画配信サイトのユーチューブで徳之島を発信し人気となっているのが、島のユーチューバーとして知られるのチャンネル「みんなの徳之島元気テレビ」だ。昨年5月の開設から1年半で登録者は2000人を超えた。「徳之島の最大の魅力は人だ」と考え、さまざまな島民たちを紹介し、地域の人々のつながりを生み出す「地域交流動画」の先駆的なチャンネルとなっている。

闘牛の世話をする女子高校生たちを紹介する「闘牛徳之島ワイド女子」シリーズは人気だ

 ■人気シリーズは「闘牛女子」

 1週間に2~3本ほどの速いペースで新作動画を配信し、この1年半で百人以上の島の住民を紹介してきた。中でも、毎作ごとに再生回数が1万を超えて人気となっているのが、徳之島名物の闘牛を世話する女子高校生たちを紹介する「闘牛徳之島 ワイド女子」シリーズ。島の美しい風景の中で、闘牛と女子中高校生の姿を密着ドキュメンタリー風にまとめてあり、「胸がキュンとなり癒やされました」などと視聴者からの評価は高い。

 さらには島内の唄者やダイバー、海外から移住してきた外国人、地域おこし協力隊員、島出身の有名人や都会や海外にいる郷友会の方などのほか、島にある飲食店、島出身者には懐かしいお年寄りが作る島伝統料理の作り方も紹介するなど、「島民による島民のための動画」となっている。

 都会に暮らす島出身者から「(動画を通じて)懐かしい顔に久しぶりに会えてよかった」と感想をもらうことも多いと言う。動画の目指すメッセージが届いたことに喜びを感じると丸野さん。

 ■徳之島の魅力は人

 丸野さんがユーチューブによる発信を始めたきっかけは、コロナ禍で本来の業務が減ったことがきっかけだった。徳之島町文化会館に所属して各種イベントなどのサポートをを行っているが、軒並みイベントが中止となった。

 もともとは1989年から続く「トライアスロンIN徳之島大会」の実況中継を担当する名物司会者として、旅行会社や観光協会事務局など長く観光畑で働いた。インターネットの掲示板や動画撮影も趣味程度に手掛けた経験もあったが、インターネット交流サイト(SNS)の時代が到来した。奄美大島と徳之島が世界自然遺産に登録される直前でもあり、「徳之島最大の魅力は人。島民約2万人全てを紹介していきたい」と考えてのことだった。

 丸野さんは「島民みんなが笑顔になれ、都会に暮らす島出身者たちにもいつでも島を思い出してもらう心の拠り所のメディアとして成長させていきたい」と話す。いつも必ず動画に必ず付けるハッシュタグ(#)は「#徳之島」だ。

 新聞など紙メディアが地域を代表するメディアとなっていた時代から、動画やSNSなどのインターネットに移行する大きな変わり目での新しい挑戦ともなっている。

 ■新ジャンル「地域交流動画」

 地域から発信される動画「地域動画」は、①観光・地域PR動画②娯楽・文化動画③ニュース・ビジネス動画④地域交流動画―に大きく4分類できると、筆者は考えている(図参照)。前回紹介した与論島の佐藤伸幸さんが手掛けた奄美群島各地のエコツアーガイドを取材した動画が国内外への発信を目的とした「①観光・地域PR動画」である一方、丸野さんの動画は「④地域交流動画」に該当する。島民や島出身者に向けて住民を紹介することで地域住民の交流を促し、さらに島出身者に対しても島を思い出し、島とのつながりを持ち続けることを主な目的としているためだ。

 こうした「地域交流動画」は、故郷への帰属意識が強い離島や地方だからこそ成り立つ珍しい新ジャンルの動画ともいえ、動画チャンネルを拠点とした新しい地域興しに発展していく可能性を秘めている。

 ■動画で地域再発見

 実は、伊仙町阿権地区の民家にある「300年ガジュマル」を最初に名付けたのも丸野さんだ。旅行会社の添乗員として全国各地を巡り、各地で巨木が観光名所になっていることを知り、徳之島の地元にも巨大なガジュマルがあることに気づいて、内外に注目されるように表現したという。

 「島は素材が豊富だが、島民自身はあまり気づいていないし、見せ方やPRが少し下手な部分がある」。こんな素敵な人がいる、こんな面白い行事がある、こんな美味(おい)しい店があります―などなど、島民と島出身者のために徳之島の全てを伝えていくテレビのような総合的なチャンネルに育てていきたいと夢見る。「島が好き、人が好き。動画発信を通じて地域を再発見ができるのが幸せだ」と笑顔で話した。(デジタルマーケティングコンサルタント)

 ※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年11月16日付から転載

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