〝奄美の価値〟伝える動画の魅力

地域デジタルマーケティングのすすめ⑤

◎〝奄美の価値〟伝える動画の魅力

 ユーチューブなど動画投稿サイトが、奄美に観光客を呼び込む重要な役割を果たすようになっている。奄美群島の観光PR動画をプロデュースした与論島のエコツアーガイド、佐藤伸幸さん(40)は「動画で伝える地域のありのままの姿こそ、国内外の観光客たちの心に刺さる時代になった」と話す。

佐藤伸幸さんが与論島を案内した旅行系ユーチューバーの「sunny journey~サニージャーニー~」さん(左)。奄美を訪れ、地域のありのままの姿を伝える旅行系ユーチューバーは増えている(画像はサニージャーニーさん提供)

 国内でユーチューブを視聴している月間利用者数は今年10月3日時点で6900万人と、ラインの9200万人に次ぐSNS(交流サイト)となった。地域に観光客を呼び込む手段として認識され、奄美群島内でも各市町村、観光業者や個人などがさまざまな動画を発信するようになっている。

 昨年7月の世界自然遺産登録を記念して奄美大島の貴重な動植物などを紹介した動画「いのち、むきだし。奄美大島」が第4回日本国際観光映像祭で準グランプリを受賞したほか、佐藤さんがプロデュースした奄美群島広域事務組合の動画作品「奄美群島国立公園 環境文化型 人間と自然との関わりそのものを受け継ぐ」も最優秀作品賞を獲得した。

 米国人女性観光客のアリーが、奄美群島5島をそれぞれの島の認定エコツアーガイドと一緒に巡り、島の自然と人が共に織りなす魅力を体験していくストーリー仕立てのシリーズ動画だ。国内外の観光客を対象に制作し、英語・中国語の字幕も付けた。このうち人気の動画は公開から1年で6万回も再生されている。

 佐藤さんは新型コロナでガイドの仕事が減る中、欧米で映像制作に携わっていたプロカメラマンらとともに島々のエコツアーガイドを撮影。奄美群島を一つのチームと見做し、国立公園指定の要素ともなった「環境文化」を国内外に発信すると同時に、「地域の人々にも愛される動画を作りたい」と思ったのがきっかけだったという。

 ■ドローカルはグローバル

 佐藤さんは「ドローカルはグローバルだ」と言う。時代を経ても変わらない地域そのままの姿が、観光客の若者や外国人たちにグローバルに響く。彼らは単に美しい風景を見るだけでは飽き足らず、奄美の普段の生活である衣食住を体験したいと願い、アイランドホッピングしている。

 佐藤さんは観光ガイドとして、中国語と英語の通訳案内士として、与論島に訪れる国内外の観光客を案内し、最近の観光志向の変化を感じつつあった。例えば、島では何気ない風景だが、鍵がかかったまま停められた車やバイク、通り過ぎると島民同士が手を振り合う場面を見て、観光客は島民同士の近しい人間関係を感じ取り、驚き、感動することも少なくないという。

 奄美の人々はじっくり時間をかけて、地域に必要なものと不必要なものを精査していく。そうした時代に流されない島の暮らしそのものが、国内外の観光客から見たら貴重な宝として映っている、と佐藤さんは指摘する。

 ただ逆に、そうしたゆったりとした時間の中では当然だが、目まぐるしく変化する観光客のニーズは見えにくい。都会的な格好の良い動画や高級リゾート的な動画が一時的に多くのアクセスを集めたとしても、それは本来の奄美の価値とはかけ離れ、観光客が求めるものとのズレが生じてしまう可能性もある。

 ■地域PR動画のファネル構造

 佐藤さんは、地域に観光客を誘客するために必要なPR動画は、①広く認知を促す行政(自治体)による公式動画②旅行系ユーチュバーやインスタグラマーが撮影するリアルな動画や写真③観光客や地元の事業者らの動画やSNSなどによる各種デジタル発信―の3種類が必要で、これはファネル(漏斗)構造になっていると考えている(図参照)。

 自治体の公式動画を参考にして、人気のある旅行系ユーチューバーが現地を訪ね、島民やガイドらと交流した動画が多く閲覧される。ユーチューバーの動画を見た観光客が実際に来島し、動画やインスタグラムなどSNSで拡散する。さらに地元業者らもデジタル発信するという、動画を起点にした誘客の循環が発生している。

 デジタル情報に慣れている若者たちは、PR動画の「広告臭」「宣伝臭」を敏感に感じ取って避ける傾向があるが、ユーチューバーや観光客の発信する現場のリアルな声をより信頼する。だからこそ、前記のような地域PR動画のファネル構造が誘客に効果があるのだ。

 ①はまとまった資金が必要だが、②と③に関しては「お金も技術もなくても、スマホと旅人への親切心があれば生み出される」(佐藤さん)。最近は、旅行系ユーチューバーの動画などを閲覧した観光客が各島のエコツアーガイドを申し込むケースも増え、島への経済的な還元にも手応えを感じているという。(デジタルマーケティングコンサルタント)

※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年10月19日付から転載

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