どんな奄美を発信していくのか

地域デジタルマーケティングのすすめ③

 前回は、奄美群島の社会経済にじわりと深刻な影響を与えていく人口減という課題に対し、デジタルマーケティングなども用いてU・Iターン、旅行者、海外人材などの「関係人口」を増やしていくべきという話をした。では、「どんな奄美をデジタル発信していくのか」について今回は考えてみたい。


 U・Iターンなどの移住・労働市場、インバウンドを含む国内外の観光市場で、奄美がどんな立ち位置にあるとより選ばれようになるのかを考えることで、「どんな奄美をデジタル発信していくのか」という問いに対する回答が見えてくる。
 今回は、企業が新規事業を探る際に行うマーケティング手法である「STP分析」を奄美群島を対象にして試みた(図表1)。STPのSはセグメント(市場)、Tはターゲット(対象)、Pはポジション(立ち位置)のこと。多種多様な市場が国内外に存在する中で、どの市場のどのようは層に対し、そしてどのような立ち位置で事業(サービス)を展開したらよいのかを考えるビジネスでのフレームワークだ。
 顧客に選ばれる商品を設計したり、効果的な集客プロモーション戦略につながるとされている。例えば、安くて美味(おい)しいリンゴが多く出回る青森県に、同じリンゴの産地である長野県の高級リンゴを並べても売れないのは明白なため、東京銀座で富裕層を狙った方がよいと考えることと同じだ。

 ■〝ありのまま〝が 魅力に

 「STP分析」の後に、さらに奄美を差別化してどんな働きかけをしていくかを「四つのP(マーケティング・ミックス)」で考えてみた結論から言ってしまうと、奄美が目指すデジタル発信の姿は、「人とのふれあいや自己実現を求める都市住民・海外市民らに向けて、地域の課題を含めた〝ありのままの奄美〟の自然・文化・人・社会を発信すること。彼らとともに地域課題を解決していくオープンな地域」だと考えている。
 奄美は、世界自然遺産に象徴される美しく貴重な自然があるだけではない。現実には人口減少問題だけでなく、環境問題もあり、低所得や財源不足などさまざまな社会課題も抱えている。「奄美はこんなことに困っている」という、マイナス面も含めて本来の地域の姿を伝えていくことが、奄美に必要な知識や技能を持った人々を惹(ひ)きつけると考えている。
 都市住民は美しい景色を「消費」するだけでは物足りなくなっているからだ。モノ消費の時代は終焉(しゅうえん)し、消費活動にSDGSのような社会的な価値や自己実現を求めるようになっている。彼らは地域の課題に共感し、何らかの形で貢献したいとも考えている。奄美のありのままの姿は、大衆化され低価格のパッケージ商品として大量消費されていく北海道や京都、沖縄などの有名地域との大きな差別化にもつながるだろう。

 ■地域課題に関心を 寄せる若者たち

 図表2は、若者に人気の短文投稿サイトのツイッター(Twitter)で7月29日に投稿されていた奄美に関係する無数の「つぶやき」について、筆者がテキストマイニングと呼ばれる分析をした。奄美と関わるどんなキーワードが多く出現しているか、その傾向を調べるもので、この日は奄美に接近していた台風のほか、世界自然遺産登録と関連してノネコの捕獲・救出についての話題で盛り上がっているのが分かる。若者たちがインターネット上で広く関心を寄せるのは、地域の問題ということは多い。

図2


 「ふるさとチョイス」を企画・運営するトラストバンクが東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に住む15~29歳を対象とした「若者の地方暮らしに対する意識調査」を実施したところ、「現在や将来、仕事を通じてSDGsや社会課題の解決に取り組んでいる、あるいは取り組みたいと考えてるか」という質問に対して、半数以上となる53・5%が「はい」と回答。このうち、地方移住に関心があるのは66・1%に上った。
 一方、「いいえ」と回答した人は、地方移住への関心も29・6%と比較的低くなる傾向となった。社会課題への意識が高い若者ほど地域移住に関心があることが判明している。
 奄美は、このアンケートでいえば、「はい」と答えた人々のうち、社会課題に取り組み、地方移住に関心のある若者たちをターゲットにして地域の課題も素直に打ち明け、「手助けしてほしい」と声をかけていったらよい。奄美からのデジタル発信は、思いがけない化学反応を生み出していくだろう。
 次回からはすでにさまざまな形で関係人口の創出に向けて地域で活動し、発信している人々を紹介していきたい。(吉沢健一 デジタルマーケティングコンサルタント)

※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年8月17日付から転載

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