デジタル発信で変わる奄美

地域デジタルマーケティングのすすめ①

 地域振興は、デジタル発信が鍵を握る時代になっている。地域の個人や企業組織もSNS(インターネット交流サイト)や動画サイトなどを駆使して発信力を持つようになったデジタル時代に、奄美の魅力をどう内外に伝え、島外の人や知見を呼び込び、さらに実のある地域振興につなげていけばよいのか。この連載では、すでにデジタル発信を実践している奄美群島内外の先駆者たちを訪ね、地域のデジタルマーケティングの課題と可能性を探っていく。

 私は20年以上にわたる記者・編集者生活を経て、近年はウエブサイトやSNSでどんな記事や投稿が人気なのかなどを解析し、企業やメディアが効果的に発信、集客する方策を探る仕事をしている。

 縁があって2020年春から今年春まで2年間、南海日日新聞のエッセーコーナー「つむぎ随筆」に執筆する機会を得たこともあり、奄美のデジタル発信に関心を寄せるようになった。加計呂麻島での暮らしをInstagramで発信して大人気となり、「夫とちょっと離れて島ぐらし」という映画にもなったイラストレーター、ちゃずさんをはじめ、実に多くの若者や移住者たちが現地から動画サイトやSNSなどで発信するようになった。

 奄美に長く暮らす人々にとっては何げない日常も、都市住民にとっては新鮮だ。発信者たちは、こうした発信の素材となる身近な地域資源や魅力を再発見し、「奄美×デジタル発信」という組み合わせによって地域に新しい風を吹かせているのだ。

 ■奄美という素材が輝く時代

 マーケティング論的に近年の消費市場動向を表現すると、大量消費社会とは異なり、消費者は消費行動に「自己実現」を求めるようになっている。ブランドではなく、自分の価値観や人生観とマッチした商品やサービスを選ぶ。そんな商品やサービスを提供している地域の企業や団体、個人がデジタル発信していくことで、都市の消費者と簡単につながれる時代となった。

 逆に、消費者自身もそうした地域企業の発見や感動をSNSなどを通じて他者と共有化するため、消費やつながりが全国や世界に拡散していく。消費者と地域企業がともにデジタル発信で自己実現できる時代となった。

 一方、筆者が奄美で記者生活をしていた1990年後半は、電話やファクス、郵便ぐらいしか通信手段がなく、まだインターネットが珍しかった時代。奄美群島内の隣島ですら物理的にも、心理的にも遠かった。奄美郡島内外への発信といえば、テレビ出演や新聞掲載ぐらいで、限られた人の手段だった。

 それから20年を経た奄美の人々の、新聞やテレビなど既存メディアに依存しない地域発信の形こそが、時代の変化を強く感じる部分だった。

 「新型コロナウイルスのパンデミック(感染拡大)がデジタル化を加速させ、離島でその恩恵に預かっているのが20代から40代ぐらいまでの若年層。彼らが各島での個人での取り組みである『個人戦』から、群島内が連携した『団体戦』に移行し、課題解決に向かっている」と、奄美群島の観光PR動画をプロデュースしている与論島のエコツアーガイド、佐藤伸幸さん(40)も指摘する。

 ■地域の弱みも強みに変わる

 この連載で奄美群島内外からデジタル発信している個人や企業・団体の事例を紹介していく前に、筆者が今年5月に群島各島への取材旅行でのヒアリングを参考にしながら、奄美群島を「SWOT分析」してみた(図)。SWOT分析とは、内部環境と外部環境それぞれに由来する要素を洗い出し、現状を分析していく手法だ。

 左側の「プラス要因」で示したが、世界自然遺産にも登録された自然環境、シマ唄などの風習文化などはよく知られた奄美のプラス面だが、近年は「都市住民の自然志向」や「情報発信の双方向化」などといった外部環境でのプラス面の登場が追い風となり、奄美のデジタル発信の有効性が高まった、と筆者はみている。

 「離島という地理的なハンディ」などのマイナス要因も、都市住民や外国人旅行者からは「穴場」と捉えられ、プラス要因にも変わりえる。

 次回からは、奄美でのデジタル発信者たちの取材を基に、地域からデジタル発信する意義を考えていきたい。

    ◇

 吉沢健一 1971年、長野県生まれ。大島新聞社(現・奄美新聞社)、長野日報社などを経て、共同通信グループのアジア経済メディアで中国版編集長、WEB編集長。2022年4月に独立し、企業向けにコンテンツマーケティングやDXコンサルを手掛けている。上級ウェブ解析士。神奈川県川崎市在住。

 ※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年6月15日付から転載

You May Also Like

More From Author

+ There are no comments

Add yours