地域デジタルマーケティングのすすめ②
ウェブサイトやインターネット交流サイト(SNS)、動画などを通じた奄美群島からのデジタル発信によって、これまで身近すぎて気づきにくかった地域の良さや弱点の再発見につながり、それは地域振興の素材にもなるという話を前回した。では、「どこの誰に向けてどんな奄美を発信していくのか」という基本的な問題について今回は考えてみたい。
この最初にぶち当たる問いは、基本的であり最も大切だ。誰でも気軽にできるデジタル発信だが、デジタル情報の大海原にあっては、闇雲に拡散して関心を集めて「バスった」としても、奄美が必要とする相手に届かない可能性もある。もちろんそれぞれの自治体や企業組織、個人によって発信は多彩であるべきなのは前提だが、奄美としてデジタル発信の方向性を見つけておくことは無駄ではないだろう。
だが、その前に奄美の地域課題を整理しておく必要がある。地域の課題を把握していないと、デジタル発信する目的とその方向性も曖昧模糊(あいまいもこ)のままだからだ。
■人口減少が最大の課題
前回、奄美の強みと弱みをマーケティングの手法であるSWOT分析で明らかにしてみたが、その中でも「少子高齢化と人手不足」という人口動態こそが、地域の社会福祉や教育、産業、財政などさまざまな方面に最も深刻な影響を与える要素だと考えている。
筆者が新聞記者として奄美に来たばかりの1995年の奄美群島の総人口は13万5791人だったが、2020年は10万4281人となった(国勢調査)。この四半世紀で人口は23・2%も減少した。同時期の鹿児島県全体の減少率11・5%と比べると、減少幅の大きさが分かる。
さらに、国立社会保障・人口問題研究所によると、10年後の2030年には奄美群島の総人口は8万7942人にまで減少すると予測されている。このままでは多くの町村や集落ではいわゆる「限界集落」が出現し、社会単位としての存続が危ぶまれる事態にもなるのはほぼ確実な情勢だ。
こうした奄美の深刻化する人口減少問題に対する施策は、まず内部環境に当たる(1)出生率の引き上げや(2)産業振興・雇用創出などがあるが、一方で(3)奄美出身者を含めた都会からのUターン・Iターンを増やす方がより現実的かもしれない。さらには、医療・福祉や流通、建設業、飲食業などでの人手不足に対しては(4)海外人材の受け入れも必要になってくると思われる。産業振興策として(5)国内外の観光客(交流人口)を増やすことも群島内にお金を落とし、雇用を生むことにもつながる。
このうち(3)から(6)までの対策のいずれもデジタル発信が一定の役割を果たす「外部環境への働きかけ」で、さらに(3)から(5)は地域にさまざまな形で携わる人々のことを示す「関係人口」の創出策に該当する。
全国では、この関係人口に着目して地域振興に取り組む自治体も増えている。愛媛県の西条市はSNS活用を中心にした市民と関係人口のネットワーク「Love Saijoファンクラブ」を作って、棚田や里山の再興、特産品開発などを協働で行っている。富山県の南砺市は、市外に住みながらも地域に愛着を持ち、応援してくれるといった要件を満たす人を「応援市民」として登録している。
■デジタル発信で「関係人口」創出を
以上のように奄美の課題を整理してみると、冒頭の問い「どこの誰にどんな奄美を発信していくのか」に対する回答が少しずつ見えてきたかと思う。
結論から言ってしまうと、「奄美を好きになってもらい、またさまざまな形で地域づくりに関わってもらえる都市住民や海外人材、さらに国内外の観光客などに向けて発信していく」ことだろう。デジタル発信などによって関係人口を創出し、人口減少に歯止めをかけるとともに彼らとともに奄美の地域課題を解決していくべきだと考えている。この連載でも紹介していくが、すでに奄美で関係人口を増やそうと各地域と連携し、デジタル発信する組織や個人も出てきている。
次回は、奄美としてのポジションをより詳細に分析することで、冒頭の問いの中で残った「どんな奄美を発信していくのか」について考えてみたい。
(吉沢健一 デジタルマーケティングコンサルタント)
※奄美の新聞社、南海日日新聞2022年7月20日付から転載
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